ラヴィアンローズ―1

 野村智幸は酷く疲れていた。「脚が棒のようだ」とはまさにこのことだと
思う。まだ五月中旬だというのに、七月上旬並の蒸し暑さも手伝って、
身体が鉛のように重かった。

 安いだけが取り柄の、駅から離れたビジネスホテルは、かなり古びていた。
壁にできた染みをぼんやり眺めながら、今日一日の行動を無意識のうちに
反芻する。

 朝は、午前五時に起きて、同僚と二人、名古屋から始発の新幹線に乗った。
東京で二日間に渡り開催される合同展示即売会に参加するためだ。

 会場で自分達の吉崎繊維株式会社のブースを確認すると宅配で搬入して
あった商品見本やパンフレットを並べた。開場時間ギリギリにやって来た
アルバイトに伝票の書き方を説明しているうちに開場になり、その上、
人混みに酔って気分は最悪だった。

それでも営業スマイルを顔に張り付かせて商談をこなした。

 交代で昼食を済ませ、疲れた頭をしゃっきりさせようと、休憩ブースの
自販機でウーロン茶を買ったのは午後二時過ぎのことだ。数口飲んで人心地
つくと、自販機の前でしきりにジーンズのポケットを探っている青年に
気がついた。

 180センチ近くの長身と、均整のとれた長い手足、茶髪は珍しくないが
サングラスをかけた彫りの深い顔立ちからすると日本人ではないのかも
しれない。智幸は、さっき自分がウーロン茶を買ったおつりの小銭を自販機に
入てやった。

「好きな物をどうぞ」

 振り返った若い男は、サングラスをかけていて表情は読みとれなかったが、
突然の親切に戸惑っているようだった。

「これだけ暑いと冷たいものが欲しくなりますよね」
 智幸は安心させるように優しく笑いかける。

「どうも」
 最初は面食らっていた青年が破顔した。智幸も微笑み返すと、同僚や
アルバイトに飲み物を差し入れしてやるために急いでその場を後にした。

 午後五時の閉会の後、翌日の準備をしてホテルに辿り着いたのは八時近く
だった。同僚からの夕食の誘いを「疲れているから適当に済ませる」と断って、
ベッドに身体を投げ出した。

 携帯電話を操作していつもの音楽を聴く。こんな風に落ち込んで泣きたい
気分の時、このエディット・ピアフの『バラ色の人生』は、智幸を静かに
慰めてくれる。

三歳で両親を交通事故で失い、父方の祖母に育てられた智幸は、父の遺した
レコード・コレクションの中からこの曲を見つけて以来、悲しいとき、
辛いとき、いつもこの曲に癒されてきた。

 曲が終わったことにも気づかずにウトウトしていると、枕元のアラームが鳴った。
智幸にはまだ“仕事”が残っているのだ。身体をしゃっきりさせるために熱い
シャワーを浴びると、智幸は重い足取りで部屋を出た。

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ラヴィアンローズ―2

「そろそろ出ようか」
 そう言って立ち上がった男に、智幸はゆうるりと顔を向けた。

 酔いが回って立ち上がるのが酷く億劫だったが、商談をまとめるためには
今夜、この商社マンと寝なければならない。
智幸が勤める、不景気でほとんど仕事のない吉崎繊維に、定期的な発注を
かけてくれるこの男は、大切な取引相手だった。

 井村則夫、三十八歳、バツイチ。すでに一年半程の付き合いになる。
ねちっこい愛撫は吐き気がするほど嫌いだったが、智幸に拒否する勇気などない。
二十人あまりの従業員とその家族の生活がかかっているのだ。

 いつも目を閉じて愛する真治に抱かれた記憶を手繰り寄せ、行為が終わるのを
じっと待つ。井村は変な道具や怪しい薬を使わないし、派手に喘いでみせれば、
容易くイッてくれた。

 ホテルのラウンジ・バーを出て数メートル歩いたところで、智幸はよろめいた。
通路のカーペットに足を取られたのだ。

 酔ってさえいなければ取るに足らないふらつきだったが、今の智幸にはバランス
を保つだけの均衡感覚は残っていなかった。視界がグラリと揺れて側にあった衝立
に頭をぶつけそうになった瞬間、智幸はもの凄い力で引っ張られ、広い胸に抱え込まれた。

「気をつけろよ、酔っぱらい」

 背後から苛ついたバリトンが言った。確かに今夜は飲み過ぎたようだ。智幸は
弛緩した身体を動かすのが億劫で、その胸に体重を預けたまま辛うじて立っていた。

 エレベーターのボタンを押していた井村が、ようやく異変に気づいて振り返った。
「どうしたんだ、野村君」
 男に抱きかかえられた智幸に、咎めるような視線を向ける。

「こいつ、飲み過ぎたみたいだから、俺が部屋まで送るよ」
「誰なんだ、君は!?」
「こいつのダチだよ、オッサン。何か文句あるのか!」

 威嚇するような若者の視線に井村はたじろいだ。商談をエサに智幸をベッドへ
連れ込もうとしていたのを見透かされたようでバツが悪く、強い態度に出られない。
酔いで気分が悪そうな智幸を見て、これではセックスの相手はさせられそうにないと
踏んで諦めた。

「彼の介抱は君に任せるよ」
 井村はそう言うと、逃げるようにエレベータの中に消えた。


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ラヴィアンローズ―3

 冷たいタオルで首筋を拭われ、智幸の意識は急速に覚醒した。目の前の
見知らぬ青年に驚いたが、ふわふわと身体が宙に浮いているようで起き
上がるのもままならない。

「……きみ…は…だれ?」
 呂律の回らない口で何とかそれだけ口にする。

「オレは晰夜(せきや)。明晰の晰に夜って書くんだ」
「せ…きや…くん」
「あんた、飲み過ぎだよ。アルコール中毒になったらどうすんだ」

 明らかに自分より年下に見える晰夜に、咎めるような口調で言われて、
智幸は戸惑ったが、労るように優しく髪を撫でられて不思議な安堵感に包まれた。

「……つか…れ……。す…こし…ねむら……」
 すべて言い終わらないうちに、智幸の意識は睡魔の手に奪われていた。

          
 智幸はいきなり身体に衝撃を受けて目覚めた。驚いて見ると胸の上に誰かの
腕が載っていた。どうやら、この腕が載った衝撃で目が覚めたらしい。隣に
視線を移すと、見知らぬ青年が眠っていた。

 服を着ておらず、シーツから覗く身体には、ジムで鍛えているのか、程良く
筋肉が付いていた。智幸の華奢な体格とは正反対の、精悍な体つきだ。整った
目鼻立ちと彫りの深さは、どこか他人を拒絶する冷たいものを感じさせる。

 智幸は、青年を起こさないようそろそろと腕を除けるとベッドから這いだした。
今夜は商談のため、井村と寝るはずだったのに、なぜ自分はこの青年の隣で眠って
いたのだろう。いくら考えても思い出せなくて、智幸は焦った。

 唯一、わかることと言えば、自分がこの青年とセックスしていないということ
だけだ。いくら意識をなくしていても、本番をすれば身体にダメージを受けるから、
それだけはさすがにわかる。枕元の時計で時間を確認すると午前三時だった。

 とにかく、ランニングとトランクスだけの下着姿はいただけない、服を着よう、
と思い至った智幸は、自分の服を求めて視線をさまよわせた。ここは、どうやら
ホテルの一室のようだが、やたらと広くて服らしきものは見当たらない。
間違えて覗いてしまったバスルームには、手つかずのシャンパンとキャビアが
残っていた。

「起きたのか?」

 不意に声を掛けられて、智幸は飛び上がらんばかりに驚いた。振り返ると、
射るような冷たい目をしたさっきの青年がバスローブを羽織って立っていた。
身長167cmの智幸は嫌がおうにも青年を見上げる形になる。


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ラヴィアンローズ―4

「あ…あの……、僕の服は?」
「ああ、服なら」

 そういって踵を返した青年の後に付いていくと、寝室の奥のクローゼット・
ルームに案内された。こんな奥にクローゼットがあったとは、智幸もさすがに
考えつかなかった。自分のスーツがきちんとハンガーに掛けられているのを
見て、なんだかほっとする。

「ありがとう」
 スーツを取ろうとのばした腕を青年がつかんだ。

「え……?」
「あの男の部屋へ行くのか?」

 青年が不機嫌そうに訊いてきた。一瞬にして智幸は記憶を取り戻した。

 気分が悪くなって、転びそうになったところを助けてくれた青年。動けない
智幸をベッドまで運び、介抱してくれた。名前は確か「晰夜」と言った。

「あ……」
 笑って誤魔化さなくてはと思うのに、うまく笑えなかった。代わりに涙が
こぼれた。男娼まがいのことをしている自分が惨めで――。

「……泣くなよ。可愛い顔が台無しじゃないか」
 晰夜は少し驚いたようだが、智幸をその広い胸に抱き寄せた。筋肉の張った
逞しい胸が心地いい。“彼”を思い出すから。

 智幸の背中を撫でていた手のひらが、やがて下着の中に忍び込んできても、
智幸は拒まなかった。
        
 夜明け前の薄暗いバスルームで、暖かなシャワーに打たれながら抱き合った。
ボディソープの滑りを借りて、晰夜は飽くことなく智幸の肌を愛撫する。
標準サイズより明らかに大きいソレは、智幸が擦ってやるとたちまち硬度と
サイズを増した。

 どうやら晰夜は、同性を抱くのは初めてのようで、いきなり挿入しようとした
ので智幸は慌てた。

「待って! いきなりなんて無理だ」
 赤面しながらも必死で訴える。

「準備するから、ベッドで待っていて」
「…………」

 晰夜は眉を顰めて智幸を見つめたが「わかった」と一言呟くとバスルームを
出ていった。

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ラヴィアンローズ―5

 いきなり突っ込まれなくて安堵したものの、智幸は憂鬱になった。
ストレートの男は、あれこれ恥ずかしいことを自分から口にして
教えなくてはならないからだ。

今まで年上の手慣れた井村に、いつの間にか裸に剥かれ、気がつくと
挿入の準備までされていた智幸には初心者は荷が重かった。

 洗浄と拡張を済ませ、背広の内ポケットに忍ばせていたコンドームと
潤滑剤を持ってベッドに行くと、寝そべっていた晰夜が上半身を起こした。

 まるで一匹の野獣が悠然と身を起こしたような錯覚に捕らわれ、智幸は
ゾクリとした。なんと美しい獣だろう。

 智幸はゆっくりと近づくと、晰夜のバスローブをはだけた。何のためらい
もなく、怒張して頭を擡げた肉棒に舌を這わせる。裏筋の血管を辿るように
チロチロと舌でなぞると、晰夜は苦しげに呻いた。

 硬度を増したモノに勇気づけられ、智幸は懸命に口淫を続けた。とにかく一度、
出させておかないと、余裕のない男は暴れ馬のようで手に負えないと知って
いるからだ。

 先走りの苦みを感じて、智幸はコンドームを着けていないことに気がついた。
装着を忘れてしまうほど、自分が夢中になっていたことに呆れた。

 今にも弾けそうな熱い楔にコンドームを被せると、智幸はディープ・スロートで
一気に追い上げる。

「ウア、アッ!!」
 短い叫びとともに晰夜が弾けた。口腔内でビクビクと跳ねるそれが落ち着くのを
待って、口から抜き出した。

 放出してもまだ充分な硬さを保っているペニスに新しいゴムを着けると、智幸は
自分の後孔にもたっぷりとジェルを塗り付けた。それから、放出の余韻にぼんやりと
している晰夜の唇に、羽根のような口付けを落としてやる。

 すると、晰夜は強引に智幸を引き寄せて舌を差し込んできた。苦しいほどに口腔を
犯されて息が上がっていく。ようやく解放されたときには、智幸は晰夜の逞しい身体の
下に組み敷かれていた。

 目が合ったが、どちらも無言のままだった。大きく下肢を開かれ、胸につくほどに
両足を折り曲げられた苦しい体勢で、凶暴な切っ先がめり込んできた。

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