永遠の恋人―1

 月曜の朝、出勤すると会社はただならぬ雰囲気に包まれていた。
普段、滅多に会社に出てこない役員達までもが会議室に勢揃いし、
何やら深刻に話し合っている。

 俺達営業は、課長から自宅待機を命じられ、俺はどす黒い不安を
抱えたまま帰宅した。不安で居ても立ってもいられなくて、同期で
経理課にいる牧野の携帯に電話してみた。

「ああ、白藤。おまえら自宅待機だってな。こっちは目が回りそうな
忙しさだってのに優雅でうらやましいよ」

「どうなってるんだ? うちの会社、倒産するのか?」
「うーん……」

「何か知ってるんだな。教えろよ」
「さっき、T物産の常務が来た」

「合併吸収されるのか!?」
「俺みたいなヒラにそんなことわかんねぇよ。あっ、部長が戻ってきた。
じゃあな」

 牧野は、一方的に電話を切ってしまった。俺はしばらく無情に
ツーツーと鳴る電話を眺めていたが、ドアフォンの音に我に返った。

「白藤先輩、もう昼飯食べましたか? にぎり寿司買って来たんで
一緒に食べませんか?」
 脳天気な滝本の声に、俺はムッとしたがそう言えば昼飯が
まだだったことを思い出した。

「あがれよ」
 滝本を追い返さなかったのは、断じて寿司に釣られたからじゃない。
堪らなく不安で誰かに側にいて欲しかったからだ。

 滝本は、狭いキッチンでインスタントの澄まし汁を作り、丁寧に
緑茶を煎れた。
「おまえ、失業するかもって時に随分、奮発したもんだな」
 滝本が持ってきたにぎり寿司は、恐ろしく豪華なネタだったので、
俺は呆れてしまった。

「だって失業したら、こういう贅沢はできなくなるじゃないですか。
だから今のうちにと思って」
 エヘヘと笑う滝本は、なんだか悪戯っ子のようで可愛い。ちょっぴり
気分が和んだ俺は、遠慮なく寿司をパクついた。

 食後のお茶を味わっていると、滝本が幸せそうな目で俺を見て
いるのに気づいた。

「なんだよ」
 照れくさくて軽く睨んでやる。
「うちの会社、ついに不渡りを出しちゃったんですよ」
 世間話のように滝本はさり気なく言った。

「えっ…!?」
「T物産が合併吸収という形で、社員の3分の1を引き取ってくれる
そうです。白藤先輩は残りたいですか?」
「そりゃもちろん……て、おまえ、なんでそんなこと知ってるんだよ?」

 滝本が肩を竦めて上目遣いに俺を見た。
「俺の叔父はT物産の社長なんです」
「え――っ!?」

 T物産と言えば、日本でも有数の総合商社だ。金持ちの家系だとは
思っていたけど、やっぱり財閥だったのか。

「俺は、T物産のロンドン支社に行くことになりました。だから…俺に
ついてきてくれませんか?」
「なんで俺がおまえに、くっついてロンドンくんだりまで行かなきゃ
ならないんだよ?」

「プロポーズのつもりなんですけど……」
 滝本は、耳まで真っ赤になりながら、懸命に俺を見つめていた。

「ばっ、馬鹿じゃないのか、おまえ!! 断る! 絶対に嫌だ!!」
 俺は椅子を蹴って立ち上がっていた。よりによって、なんだって
こんな時にプロポーズなんかするんだよ!  いくら俺が失業で気弱に
なってるからって卑怯じゃないか!?

「東京とロンドンの遠距離恋愛になってもいいんですか?」
「おまえがロンドンに行くのなら、別れる。待つのは嫌いだし、
セックスを我慢するのはもっとヤダ!」

 自分でも、子供のような我が儘を言っていると自覚しながら、俺は
自分の暴走する感情を止められなかった。
「側にいてくれない恋人なんかいらない!!」

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永遠の恋人―2

 滝本は途端に泣きそうな顔をした。苛められたガキのような
情けない表情で、困惑し狼狽えている。

「わかりました。俺はずっと哲也の傍にいます。ロンドンには
行きません。東京で仕事を探します」
 きっぱりとした口調で言うと、滝本は俺の右手に唇を寄せた。
「だから、俺と一緒に暮らして下さい!」

「何で、そうなるんだよ。一人でロンドンに行けばいいじゃないか。
俺はこれ以上、おまえの姉さんに憎まれるのはご免だ」
 乱暴に滝本の手を振り払うと、俺は滝本に背を向けた。
「もう帰れよ。さっさとロンドンへ行く荷造りをしろ!」

「何を怒ってるんですか? 俺は絶対に哲也の側を離れたり
しませんから機嫌を直して下さい。ね?」
 背後から柔らかく抱き竦められ、軽く耳たぶを甘噛みされると
痺れのような快感が体中を駆け抜けた。滝本のやんちゃな右手が、
ズボンの前立てを割って忍び込んでくる。

「あ……ばかや…ろッ!」
 指の腹で、ペニスの裏筋をゆっくりと撫で上げられた途端、
勃ち上がってしまった自分に、心の中で舌打ちした。セックスで
怒りをうやむやにされるなんて俺のプライドが許さない。第一
それは、俺がうっかり滝本を怒らせてしまった時の常套手段だ
ったじゃないか。それを反対に滝本に使われるなんて……

「やっ! アァッ!!」
 先端の割れ目を爪先で引っかかれて、俺は悲鳴を上げた。
畜生っ! 俺の弱いトコロをしっかり把握してやがる。どうにも引き
返せないところまで来てしまった俺は、仕方なく振り返ると、
滝本の頭を引き寄せて唇を重ねた。

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永遠の恋人―3

 翌日から、俺達は合併へ向けての準備に追われ、俺は滝本の
プロポーズをきれいさっぱり忘れてしまっていた。

 慌ただしさの中、誰がリストラされるのかと皆、戦々恐々で
怯えていた。俺はストレスから、胃の調子がおかしくなって、
胃薬を飲む毎日だった。

 給湯室でグラスに水を汲んで薬の袋を開けていると、滝本が
顔をのぞかせた。
「薬はお湯で飲んだ方が胃の負担が減りますよ」
「胃薬を飲むのに、胃の負担もへったくれもあるか!」

 俺が小馬鹿にしたような目で滝本を睨むと、滝本は決まり
悪そうに目を伏せた。
「今夜は一緒に夕食を食べませんか? このところ忙しくてまともな
夕食を食べてないでしょう? 消化にいいものを作りますから」
「食欲ないんだ。それより少しでも眠りたい」

 食べ物に釣られて、滝本のマンションなんかに行こうものなら、
明け方近くまで寝かせてもらえないに決まってるから、俺は
やんわりと断った。

 この一ヶ月、滝本はやたらと激しくて、週末ごとの逢瀬は
体力的にかなりキツかった。飽くことなく俺の身体を貪る滝本に
付き合わされて、俺は文字通り精根尽き果てて眠る。太陽が
黄色く見えるなんて、ヤリまくっていた大学生の時以来のことだった。

「また微熱でもあるんじゃないですか?」
 心配した滝本が俺の額に手を伸ばす。
「ないよ、全然ない!」
 気恥ずかしくて、滝本の手を振りほどいたちょうどその時、
後輩の山田が走ってきた。

「白藤先輩、お客様です。T物産の…社長が……」

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永遠の恋人―4

 滝本の叔父だというT物産社長・池之内孝正(いけのうち・たかまさ)氏
に、俺が呼び出されたのは、合併を翌月に控えた6月の初めだった。

 彼は、50代初めの気品のある紳士だった。しっかりした肩幅や、
節くれ立った長い指、優しげな目元、すべてが俺の好みにピッタリで、
彼を一目見た途端、俺はときめいた。
 この男とヤリたい!! たちまち俺の頭の中は、そのことだけで
一杯になった。

「なるほど、君は『傾国の美女』と呼ぶに相応しい美貌だね」
 彼の上品な口元が、からかうように引き上げられる。嘲笑されて
いるのに腹が立たないのは、彼との格の違いが、馬鹿な俺にも
はっきりとわかるからだ。

「姪の真理恵が、君は弟を破滅させるアバズレだと憤慨していた」
 相手が滝本の叔父だということなど、すっかり忘れて、ひたすら
彼とヤルことだけを考えていた俺は、その言葉に現実に引き戻された。

「だが、真路の気持ちもわかる気がするよ」
 彼は、俺を安心させるように優しく微笑んで見せた。俺が男好きの
どうしようもない淫乱と知りつつも、それを咎める気などさらさらなく、
むしろそれを寛容に笑って許していた。彼は本当に大人で、文字通り
器の大きな男だった。

「それで君は、真路のことをどう思っているのかな? 君にとって
真路はどういう存在なのか教えて欲しいな」
 単刀直入な問い掛けに、俺は当惑した。こんな風に面と向かって
第三者に問われたのは初めてだ。

「俺は、ちゃんと分をわきまえてるつもりです。彼に結婚話があるの
なら、すぐにきれいに別れます。彼にもあなたにもご迷惑は掛けません」
 俺は緊張で声が上擦るのを感じながら、なんとかそれだけ言った。

「殊勝な心がけと言いたいところだが、君は何もわかってないようだね。
真路は、真剣なんだ。君のために、せっかくのチャンスや大きな
ポストを棒に振ってしまうほどにね」

 彼は少し苛立った様子で溜息をついた。その時になって、やっと俺は、
滝本からロンドンへついてきて欲しいと言われて断ったことを思い出した。

「真路は将来、Tグループを率いていく人間のひとりだ。年齢的にも、
そろそろきちんとした実績を積み上げていかなくてはならない。私は、
そのために真路が生まれ育ったホームグラウンドのロンドン支店を選んだ」

 俺は、彼が何を言いたいのかわからなくて、黙って彼を見つめていた。

「だが海外経験のない君に、ロンドンへ一緒に行けと言うのは酷かも
しれない。それで考えたんだ。真路がロンドンで修行する3年間は、
私のところで働かないか? 今までの仕事とは畑違いだが、秘書室に
空きがある。それに真路がロンドンから戻ったら、また一緒に仕事
できるよう取り計らうよ」

 つまりそれって、滝本がいない間、俺が浮気できないよう手元に
置いて見張るってことだよな。滝本は、ロンドンから戻れば役付に
昇進間違いない。一緒に仕事できるというのは、滝本が俺の上司
なるってことだ。それ以前に、滝本がロンドンで新しい恋人を
見つけないとも限らない。

 俺は、話の裏が見えてしまう自分の聡さにうんざりした。お陰で、
せっかくの申し出に素直に肯くこともできない。
「考えさせて下さい」

 本当は、「お断りします」と言いたかったが、彼を怒らせるのは
得策じゃないと考えて、曖昧な返事をした。連絡先として渡された
金箔刷りの名刺は、応接室を辞してすぐに目についたゴミ箱へ捨てた。

 俺にだってプライドがあるんだ。俺は滝本のペットでもオモチャでもない! 

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永遠の恋人―5

 とにかく腹が立って悔しくて、俺はすぐには席に戻らず屋上へ
行った。少し頭を冷やして自分の考えをまとめるためだ。

 やっかい事の嫌いな俺としては、さっさと滝本と別れてしまう
のが一番楽なのだが、それは滝本が納得しないだろう。だけど
このまま俺のために滝本を日本に引き留めるのは気が引けた。
恋人の出世を邪魔するような情けないつき合いは御免だ。

 第一、俺は滝本に、出世と引換にするほどのものを与えて
やれない。リストラされるかもって時に、とてもじゃないが滝本を
養ってやるゆとりはない。滝本を一生、愛し続ける自信もない。
俺はすべてがないないづくしで、どっぷりと落ち込んだ。

 その時、爽やかなビル風が吹き抜けて、降り注ぐ初夏の日差し
の気持ち良さに、ほんのり心が和んだ。俺は、今が秋とか冬じゃ
なかったことに感謝した。先行き不安で落ち込んでいる時に、
冷たい木枯らしなんかに吹かれた日には、屋上から飛び降り
たくなったに違いない。6月の眩しいほどの光は、俺に前向きに
考える力を与えてくれた。

 池之内氏の用意した秘書室という鳥籠に入るのは真っ平だが、
滝本はちゃんとロンドンへ送り出してやろう。帰って来るまで、
滝本一筋で待ってると約束してやれば、単純な滝本は安心して
ロンドンへ行くに違いない。

 あいつが、ロンドンで新しい恋人を作るのが早いか、俺が淋しさ
に耐えかねて浮気するのが早いか・・・。どっちにしろ滝本を
ロンドンへ行かせてしまえば、後はなるようになるさ。慎ましく
すれば一、二年は遊んで暮らせるぐらいの貯金はあるから、
新しい仕事は焦らずに探そう。

 決心がつくと、俺は心が軽くなって、大きくノビをした。

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