ピュア・ボーイ Masato.4

 秋風が吹き始めた10月の初め、要の祖母・千帆おばさんが退院してきた。
おばさんに懐いて、孫のように可愛がってもらっていた姉貴は大喜びして、
退院祝いのパーティーをしようと言い出した。
 俺は要と顔を会わせるのが辛くて躊躇ったが、お袋が賛成して料理の腕を振るうと
宣言したこともあり、その夜、沢山の手料理を持って俺達家族は要の家の和室に集まった。

 あれ以来、俺と要は口を利いていなかった。俺が大学受験の勉強に専念したいと
言ったので、総菜はお袋が運ぶようになったし、要が頻繁に亮太を泊めるようになっていたので、
俺は要の家に近づかなくなっていた。

 久しぶりに会った要は、驚くほど綺麗になっていた。
幼さを感じさせたふっくらした頬は肉が落ちてシャープになり、やんちゃな瞳は
凍てつくような鋭いものに変わっていた。

「今夜は、お祖母ちゃんのために、ありがとう」
 どこか疲れた退廃的なムードを漂わせ、要は俺にゆったりと微笑んで見せた。
その冷え冷えとした微笑みに、俺は度肝を抜かれてただ頷くことしかできなかった。
 これが、あの明るく勝ち気だった要なのか? まるで10歳も老け込んだような
この落ち着きは何なんだ!?

 それでも要は今までの寂しさを埋めようとするかのように、やたらと千帆おばさんに甘えていた。
そのわざとらしいほどの陽気さが、俺には返って痛々しかった。
要は知っているんだ。千帆おばさんが、もうあまり長くないことを……。

 俺は食事を終えると、受験勉強と称して一人先に自宅へと戻った。
なんだか茶番めいたあの場所にいるのが苦痛だったのだ。

 数学の問題集を開いて5問ほど解いた時、部屋のドアがノックされた。
そして返事も待たずに要が入ってきた。
「デザートだよ」

 そう言って差し出されたのは、チーズケーキ。
姉貴が朝早くからキッチンに籠もって作った苦心作だ。
「下で、紅茶でも淹れて一緒に食べようか?」
 俺の誘いに要は首を横に振った。
「……そっか」

 少しがっかりして、俺はケーキの皿を机の上に置いた。しかし要は俯いたまま帰ろうとしなかった。
「どうした? 話でもあるのか?」
 俺が水を向けてやると、要はしばらく逡巡した後、やっと口を開いた。

「先週、街であの女の人が宇部高の男と歩いてるの見たよ。……すごく、仲良さそうだった」

 桃花が最近、宇部高の男とつき合い始めたのは知っていた。
俺は予備校通いで忙しくて、桃花をかまってやる暇がなくなったというのが表向きの理由だが、
本当は要に対して後ろめたさを感じた俺が、桃花と別れたかったというのが真実だ。

「雅人兄……怒ったの?」
 要は、俺がなんと説明しようかと迷って沈黙しているのを勘違いしたらしい。
やや気弱な視線を向けてきた。

「彼女とは、いろいろあって別れたんだ」
 俺は軽く笑って言った。
「ふぅん、そうだったんだ……」
「俺は今、受験のことで頭が一杯だから、恋愛は合格までお預けだけど、
彼女には幸せになって欲しいと思ってる」

 同情されるのが嫌で、そんな強がりを言った俺に、要は小馬鹿にした表情を浮かべた。
「お人好しだね。雅人兄って、ホント、堅物で優等生なんだから呆れちゃうよ」
 そのはすっぱな物言いに、俺はムッとした。

「要、性格悪くなったな。付き合う奴が悪いんじゃないか?」
「何、それ? 亮太のこと? 雅人兄にとやかく言われる筋合いないよ」

 そう言って、肩をそびやかしてせせら笑う要の仕草が、あまりに亮太そっくりで、
俺は先日の一件を思い出して逆上した。
あの時、亮太は俺が要を抱かないから自分が抱くのだと言った。では、俺が要を抱けば……。

 その時、要が婉然と微笑んで言った。
「ねぇ、彼女と別れて溜まってるんでしょう? 僕が口でしてあげるよ」

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