永遠の恋人―13

 池之内氏に連れて行かれた病院で、俺は胃潰瘍と診断され、
静養と精密検査を兼ねた5日間の入院を言い渡された。
 まな板の上の鯛よろしく、俺はもうどうにでもなれと投げやり
な気持ちで目を閉じた。たぶん鎮痛剤が効いたのだろう、吸い
込まれるように眠りの海に落ちた俺は、久しぶりにぐっすりと
眠ることができた。

 翌朝、俺は子供のはしゃぐ声に起こされた。病室は二人部屋で、
隣は小学校低学年の男の子だった。ガキンチョは苦手だ。滝本が
見舞いに来たら、耳栓を買ってこさせようと考えているところに、
池之内氏が現れた。

「やあ、気分はどうだい?」
 そう言った彼の左頬は、青く腫れ上がっている。まるで殴られた
跡のように……。
 俺がジッと池之内氏の顔を凝視していると、彼は諦めたように
苦笑した。

「真路に殴られたんだよ。君が吐血したのは、私が苛めたから
だってね。全く、手が早くて凶暴な所は昔と変わらないな」
「ええっ!?」
 滝本の奴、叔父さんを殴ったんだ……それも俺のせいで。
「すみません……」

 申し訳なくて萎縮していると、池之内氏は破顔して側にあった
パイプ椅子に腰を下ろした。
「まあ、潰瘍が5つもできるほど君を追いつめてしまったのは
私だからね。真路が怒るのも無理はない。それに君が気位の
高いお姫様だってことが、よくわかったよ」

 『お姫様』という単語に、俺が思わず眉を寄せると、池之内氏の
腕が伸びてきて、俺の額に掌を当てた。
「少し発熱しているね。怠くはないかい?」
 優しいまなざしで問われて、俺は身体の奥に火が灯るのを感じて
焦った。やっぱ、いい男だな。

「いいえ、なんともありません。昨夜はよく眠れて、気分はいいです」
「あまり不眠が続くなら、しばらく睡眠導入剤を使ってみては
どうかと担当医が言っていたよ」
「いえ、大丈夫ですから」
「困った子だね。こんなに衰弱してるのに自覚すらないなんて」

 え……衰弱してる? 俺はちょっと驚いた。そりゃ、最近は食欲が
なくて少し痩せたし、眠りが浅くて寝不足ってのは感じてたけど。
 当惑した俺は、黙り込んだ。

「ここの院長とはゴルフ仲間でね、頼んだら個室を用意してくれた。
後で婦長が案内してくれるから朝食はそちらで摂りなさい」
「ありがとうございます。あの…滝本君は?」
 ふと、滝本のことが気になって尋ねる。シェーバーや着替えと
いった身の回りのものを持ってこさせようと思ったんだ。

「一時間程前まで、ここにいたんだが、君のご両親を迎えに東京駅
まで行ったよ。昨夜、君が眠ってから、真路と相談して、君の
ご実家に連絡したんだ」
「そうですか」

 お袋が来るという話に、俺はホッとした。一から十まで指示
しなけりゃならない滝本より、ずっと頼りになる。
 俺は安心して、池之内氏に促されるまま、横になった。

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