ラヴィアンローズ―26

 その後の晰夜の行動力は凄まじかった。翌日には智幸を東京に
連れ帰り、月曜には不動産屋で二人の新居を決めていた。

 精神的に参っている智幸を一人にするのは心配だったし、考える
猶予を与えたら、智幸は同棲を承知しないとわかっていたからだ。

智幸が衣類を晰夜に送り返す準備をしていたのをいいことに、智幸
に荷造りの時間さえ与えなかった。

 智幸は晰夜に押し切られるまま、吉崎繊維に退職願を出して引継
ぎをし、一週間後には晰夜が用意したマンションに移り住んでいた。

「心機一転、東京でやり直したい」という智幸を、美保も笑顔で送り
出してくれた。

 勢いだけで始めてしまった同棲だったが、意外に快適だった。掃
除や洗濯、食事などの家事一切は、通いの家政婦が手際よく片づ
けてくれる。晰夜は自分が束縛を嫌う分、智幸の自由も尊重し、き
ちんと個室も与えてくれた。

 この辺りまでは、晰夜の言いなりになっていた智幸だったが、晰夜
が、吉崎繊維を買い取ろうとしたのには、さすがに反対した。

「藤原さんに吉崎繊維を買い取りたいって頼んだそうだね。なんだ
ってそんな無謀なことを?」

 普段は大人しい智幸から厳しい口調で詰問されて、晰夜は面食ら
った。

「智幸の喜ぶ顔が見たかったんだ。吉崎繊維は智幸の大切な心の
拠り所だったから……智幸が塞ぎ込んで、食事もまともに受けつけ
なくて、夜もほとんど眠れないみたいで……オレ…心配で……」

「でも、潰れかかった吉崎繊維を、自分のブランドの片手間に経営
するなんて無茶だよ。時間も労力も、資金だって大変だ」

 拒食症で体力が落ち、本当は立っているのも辛いほど弱っている
のに、智幸の凛とした怒りは、晰夜を萎縮させるには充分な迫力が
あった。

「プロの経営コンサルタントを招けばいいし、資金はイタリアの不動
産を売却すれば大丈夫だ。智幸が心配することはなんにもないから」

 晰夜は日本円にして20億近い財産を父親から相続していたので、
それくらいは“はした金”だった。しかし、生真面目な智幸は、きっと
晰夜に義理立てして別れられなくなる、という下心もあった。

「晰夜、僕は君と対等な立場で恋愛をしたいんだ」

 智幸に毅然と告げられて、晰夜は渋々、吉崎繊維を諦めた。
 このことがきっかけで、智幸の不安定だった精神が落ち着きを取り
戻し始めた。

一時は、『ラヴィアンローズ』を流して、ぼんやりと座り込
んでいるか、晰夜とのセックスに逃避していた智幸だったが、徐々
に食事が普通に摂れるようになり、夜も夢遊病のように徘徊すること
がなくなった。何より、晰夜のジョークに声を立てて笑えるようになっ
た。


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