[完結]ラヴィアンローズ―36

「あ……ご、ごめんなさい」
 智幸は青ざめて今にも泣きそうな顔で謝った。

「頼むから、捨てといてくれ」
「はい……」

 気まずい沈黙が二人を支配する。井村はやけくそのように
バーボンを煽った。
「いい女だったのになぁ。何でこう俺は次から次へとフられるんだ」

 智幸は困惑して俯く。
「なあ、一発やらせろよ。坊やには秘密にしておくからさ」

 どうやらこの男、自分の軽さや享楽的なところが相手を傷つけ
るのだとは、まったく気づいていない。

「ごめんなさい」
 智幸はひたすら恐縮して繰り返した。

「なーんか、君を見てると虐めてやりたくなるんだよな。あのサド
支店長が、ヤり殺さなかったのが不思議だよ。いや、俺が銀行の
人事部長におまえたちの関係をチクらなかったら、本当にヤり殺
されてたかもな」

「えっ……じゃあ、あの人の転勤は……」
「そっ、俺がメールしてやった。君の身体中にできてた傷を見たら
腹が立ってさ。あいつ、今、旭川支店だってよ。ザマーミロだよな」

 井村はクツクツと笑って二杯目のバーボンをオーダーした。

「僕は――」
 言いかけて智幸は口を噤んでしまった。

「何だよ、言えよ」
 井村が怒ったように促したので、智幸は静かに話し出した。

「僕は、あの人に酷くされると、ホッとしました。これは自分への
罰なんだって思ったから。だから、あなたが優しくしてくれると、
辛かった。僕は自分のことで精一杯で……本当に…ごめんなさい」

「いいさ。俺は充分、君の身体を楽しませてもらったからな。おい、
泣くなよ。自分の泣き顔が、どれほど男をそそるか自覚してないの
か? 押し倒すぞ」

 井村の言葉に智幸はたちまち赤面した。
「僕、もう帰ります」
 あたふたとマフラーを持って立ち上がる。

「待てよ、やっぱりそれ、返してくれ」
「え?」
「今夜のオカズにする」

 井村は不適に笑ってウインクした。
 智幸は戸惑いながらマフラーの包みをテーブルの上に置くと、その
下にそっと折り畳んだ一万円札を忍び込ませる。それを見た井村は
悲しそうに智幸を見つめた。

「君らしいな。もう俺にはいっさい借りを作りたくないってわけか」
「本当にお世話になりました」

 智幸は深々と頭を下げると逃げるように踵を返した。井村は智幸
の背中を見送ると、バーテンを呼び寄せて言った。

「あそこにいる三人組の女の子達に、一杯おごりたいんだが」



 店を出てすぐ、智幸は物陰から現れた晰夜に驚いた。

「たまたま近くに来たから」
 ぶっきらぼうに言われて、小さく微笑む。
「ありがとう」
 智幸はそっと晰夜の胸に額をくっつけた。

「心配かけて、ごめん」
「心配なんてしてないぜ。俺は信じてるから」
「うん……ありがとう」

 晰夜の鼓動を聴きながら、智幸は幸せを噛みしめた。

                 END


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