君と創る明日――18

 英夏を失った淋しさを埋めようとするかのように、成利は
頼子に溺れていた。成熟した身体はいつも存分に成利を楽し
ませてくれる。成利の父親も、うすうすは二人の関係に気づ
いているようだった。

 英夏とは、毎日のようにメールを交換していた。だが、それ
はひどく表面的で、「大切にしてもらっている」「彼を愛している」
といったありきたりで、厚いベールがかかったように英夏の心情
を読み取ることが難しいものだった。

 成利が、遊び仲間に誘われて、冬休みにアメリカ縦断旅行に
出かけたのは、気が狂いそうになるほどの虚しさを何とか紛ら
わせたかったからだ。

気の置けない男四人で気ままな旅をするのは、たまらなくスリ
リングだった。外国という緊張感と日本にはない開放感が窒息
しそうだった精神をリフレッシュしてくれた。

 だから帰国した時、頼子のマンションがもぬけの殻になって
いても、成利は驚かなかった。頼子とは、秋の終わり頃から
口喧嘩が絶えなくなり、別れ話に発展することさえあった。

成利は、黙って消えた頼子に、感謝さえした。いかにも彼女
らしいやり方だと……。




 旅行土産を渡す、という口実で英夏と会うことになったのは、
正月気分もすっかり抜けた一月の終わりだった。新幹線ホーム
まで成利を迎えに来てくれた英夏は、驚くほど痩せ細っていた。

「英夏、このまま僕と東京へ帰ろう!」

 あまりの痩せように、成利は人目もはばからず、英夏を思い
きり抱き締めて叫んでいた。

「成利ってば、こんな人混みでジョーダンやめろよっ」
 英夏は、藻掻いて成利の腕を擦り抜けると、唇を尖らせて抗議した。

「オレ、時間ないんだ。5時までにアパートに戻らないと、
夕食の準備が間に合わない」

 昼食を摂るため、レストランで向かい合って、成利は再びショック
を受けた。手袋を外した英夏の手はあかぎれだらけだったのだ。
コップひとつ、スプーン一本だって、自分で洗ったことのない英夏が、
家事をしているという事実に、成利は打ちのめされた。

 食い入るように荒れた手を見つめる成利に、英夏は苦笑した。

「洗剤とかお湯とかって、手が荒れるんだよね。もともとの体質も
あるんだろうけどさ」
 さらに照れくさそうに付け加える。

「好きな人の身の回りの世話をするって、メチャクチャ楽しいよ。
凄く幸せな気持ちになれるんだ」

 その時初めて、成利は須賀に負けたと思った。そして、自分は
永遠に英夏を失ったのだと否応なしに思い知らされたのだった。
 

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