ライオン・13

「そんなこと、俺が知ってるわけないじゃないか。社長にすれば、
甥っていっても、あの子は奥さんの実家から預かった大切な子どもだし、
奥さんの実家が中部地方でも有数の凄い金持ちで、うちの事務所の
設立資金の大半を出してもらってることは、おまえも知ってるだろ?」

 坂本の呆れたような口調に、大聖は黙り込んだ。ちょうど坂本の
オーダーしたバーボンのロックが運ばれてきて、お互い沈黙のまま
グラスを傾ける。
大聖にしては本当に珍しく、何やら真剣に考え込んでいた。

「これ……」

 ウイスキー・グラスを空にした大聖が、意を決したようにデジカメを
坂本の前に取り出した。液晶画面に映し出されているのは先日、大聖が
撮った笙の写真だ。

はにかんだ笑顔、そして甘く誘うような瞳。その奥には、妖艶な情欲の
炎が垣間見える。坂本は、ゾクリと鳥肌が立った。

「あいつ、男を知ってる」
 ぽつりと漏らした大聖の言葉。その表情はどこか苦しげだった。

「なんだって!?」

 坂本は反射的に叫んでいた。大聖は、酔うと簡単に理性の箍が外れて
しまう。それは一度だけだが、うっかり大聖と寝てしまった坂本自身が
一番良く知っている。坂本は、大聖が笙と関係を持ったのかと焦った。

「誤解すんなよ。俺はあいつとヤってない」
 坂本の大声を窘めるように、大聖が小声で言った。

「当たり前だ。淫行罪で訴えられるぞ」

 大声を出してしまった照れ隠しで軽口を叩きながらも、坂本は愕然と
していた。大聖に言われなくとも、ゲイの坂本には写真を見れば、笙が
ただの子どもではないことくらいわかる。

「それよりさ、調べてよ。あいつが実家を出た理由。ほら、前に俺の
お袋の男を調べたとき使った探偵がいい。口が堅くて調査も速かった。
金は俺の口座から幾らでも使っていいからさ」

 大聖が一気に捲し立ててきた。まるで妻の浮気を疑う夫のようだ。

「そんなこと調べてどうするんだよ」

「んー、単なる好奇心」
 大聖は視線を泳がせて、すっとぼけた。

「やめておけ。好奇心でそんな無神経なことをするな」

「ちぇっ、本人に直接聞く方が無神経だから坂モッチャンに頼んでんのに」

 坂本に咎められて、大聖はふて腐れた。自分の立場が悪くなると、
こうして虚勢を張るのが大聖の悪い癖だ。

「誰にだって触れられたくない過去はある。おまえがそれを知ることで、
あの子を傷つけることになってもいいのか?」

「それは……ヤダ」
 さすがに大聖も即答した。

「もう大人なんだから、好きな子の過去なんて、いちいち気にすんな」
「はぁ? 俺って、あいつのことが好きなのか?」

 大聖が驚いたように坂本を見た。これには逆に坂本の方が驚いてしまった。

「なんだ、自覚してなかったのか」
「うん、ぜんぜん。だって俺には春菜がいる」

 木村春菜は大聖より1歳年上のモデルだ。バラエティー番組で知り
合って、かれこれ3年の付き合いになる。だが、残念ながら二人とも、
付き合い始めた当初の情熱はもうない。

「ガタイばっかデカくなっても、おまえはまだ子どもだなぁ」

 坂本は思わず苦笑してしまった。しかし、それが大聖なのだ。
だからこそ惹かれた。そして坂本は、大聖の恋人ではなく戦友に
なることを選んだのだ。




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