ライオン・50

 その数日後、大聖が仕事を終えて深夜にマンションへ帰宅すると、久住啓介が
エントランスの入口で待っていた。

これは想定していたことなので、大聖は驚かなかった。

「笙に『好きな人ができたから終わりにしたい』と言われました」
「そっか、残念だったな」

 憮然としている久住に、大聖は坂本からアドバイスされた通りに返した。

「笙が好きな相手って、天野さん、あなたなんでしょう?」
「笙は言わなかったのか? だったら俺からは言えない」

 これも坂本から教えられた台詞だ。坂本のシナリオは、面白いほど久住の
リアクションに合致していた。

「笙が、相手の名前を言うわけないでしょう!?」

 久住が苛立ちを含んだ声で言った。そうだ、笙は自分をレイプした犯人の
名前さえ言わなかった。

「ジタバタすれば、笙との溝を深めるだけだぞ」

 大聖は、静かな口調で淡々と告げた。頭の良い久住は、嫉妬に駆られて騒ぎ立てれば、
田崎の二の舞になると、すぐに気づいたようだ。

「あなたとは、いい友達になれると思っていたのに残念です」

 久住は射るような目で大聖を見ると、きびすを返して足早に立ち去った。

 その背を見送りながら、大聖に勝利の喜びはなかった。あるのはただ、
今まで経験したことのない漠然とした不安だけだった。

 笙は、他人の感情に疎い子どもだ。
それも、レイプされた過去を持つ、傷ついた子どもだった。

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