ライオン・58

学習塾が終わった後、笙は伯母の由美に頼まれたジャスミン茶を
買うために明治屋に立ち寄った。近所のスーパーでは売っていない
メーカーのもので、由美や大聖のお気に入りのお茶だ。

 由美は、笙の母親に気兼ねして、手が荒れるような家事は一切させ
ないし、決して包丁など持たせない。その代わり、こういったお使いは
よく笙に頼んだ。

 レジで会計を済ませて店を出ようとしたとき、50代とおぼしき中年女性が
両手に大きなエコバッグを提げてよろよろと歩いているのを見かけた。
どうやら、白米を買ったらしい。人見知りの激しい笙だが、小柄な彼女が
運ぶにはあまりに大変そうだったので、見かねて声を掛けた。

「あの…大丈夫ですか? お手伝いしましょうか?」

 笙を振り返った女性は、ほっとしたように微笑んだ。

「ありがとう、助かります。この近くに車を停めているから、そこまで運んで
もらえるかしら」

 女性は「この近く」と言ったが、どうやら方向音痴のようで、笙は彼女と一緒に、
ぐるぐると路地を歩き回る羽目になった。

「本当にごめんなさいね。視力が悪くて、暗いと遠くがよく見えないの」
 彼女は金縁メガネをいじりながら、心底、申し訳なさそうに言った。

「僕なら大丈夫です。もう塾も終わったし、この後の予定はないから、車が
見つかるまでお付き合いします」

 女性があまりに恐縮しているので、笙は頑張って愛想良く笑って見せた。
以前の笙なら、絶対にできなかった芸当だ。これは、笙が笑顔を見せると、
決まって大聖が褒めてくれるからできるようになったものだ。

女性は、花が綻ぶような笑顔に目を瞠り、うっとりと頬を染めた。

 その後、笙は車のトランクに荷物を積み込むまで、結局1時間近く彼女に
付き合ったのだった。

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