ライオン・67

 高校3年の夏休み、笙はひたすら勉強に励んでいだ。エスカレーターで
付属大学に進むのは簡単だが、坂本のアドバイスで、芸能活動に寛容なN大学
を受験することに決めたからだ。

 大聖は、映画化が予定されていた『夜から朝の間に』の撮影と平行して、
セカンド・アルバムのレコーディングも始めた。すでに曲は、プロデューサーの
泉川と笙で仕上げていたので、笙はレコーディングをすべて泉川に任せて
受験勉強に没頭する日々だった。

 見かねた伯母の由美が、大聖が8月の終わりにアルバムのPV撮影で北海道へ
行くのに、笙も気分転換に同行してはどうかと提案してくれた。

 むろん笙に異存はない。坂本が大聖のスケジュールを調整してくれたので、
3日間の撮影の後、2日間は二人だけでのんびり観光することになった。

 笙以上に喜んだのは大聖だ。半年ぶりのオフで、しかも笙と二人きりで過ご
せるのだ。10冊近くガイドブックを買い込んで、大聖はここに行きたい、
あれを食べたいと楽しみにしていた。

「なんで美咲ちゃんが、ここにいんだよ? 赤ん坊に乳、やんなくていーのか?」
 それが、北海道へ出発するため、空港に集まったメンバーを見た大聖の第一声だ。

「搾乳機っていう文明の利器があるのを知らないの?」
 美咲はバカにしたように言った。

「俺達、まだ新婚旅行に行ってないだろ。それで撮影の後、ふたりでゆっくり旅行
しようってことになったんだ」
 二人分の大荷物を抱えた熊沢が汗を拭きながら説明する。

「瑠璃は、おじいちゃんとベビーシッターさんの三人で留守番よ」

「連れてくれば良かったじゃん。俺、抱っこしたかったのに」
 大聖が残念そうに言ったので、坂本が大聖に説明した。
「小さな赤ん坊の鼓膜には、飛行機の気圧変化は悪影響があるんだよ」

「坂本さんって、ホ~ント、物知りよね。大聖は少し脳みそ、分けてもらったら?」

 感心したように言う美咲に、坂本は穏やかに微笑んだ。

「姉に子どもが3人もいるんでね。それに、大聖の美点は無邪気で純真なところなんです。
俺みたいに計算高いのは大聖に似合わない。狡賢い駆け引きは全部、俺がするから、
大聖は今のままでいいんですよ」

 坂本は、大聖の持つ純真さに惚れていた。それは、笙のように育ちの良さから
くる純真さとは対局の、辛酸をなめた諦観からくる悟りだ。泥を被ってなお、いや、
泥の中だからこそ光り輝くような美しい花を咲かせた大聖を坂本は愛していた。

「坂本さんて、良くできたマネージャーなのねぇ。大聖が羨ましいわ」
 美咲はまだ、坂本の柔らかな物腰の奥に隠された冷酷さに気づいていなかった。

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