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ライオン・96

 笙がアメリカに来たときは、ほとんど荷物がなかったが、気がつくと
ずいぶん増えてしまっていた。お陰で、帰国する前日まで荷物の整理に
追われるハメになった。

『笙、ホットココアよ。少し休憩したら?』
『ありがとう、凛々花』

 笙が嬉しそうにマグカップに口を付けると、凛々花が躊躇いがちに話しかけてきた。
『本当に帰るのね、大聖のもとに……』

『うん』
 笙は、凛々花の目を見てしっかりと肯いた。

『気持ちの整理はついた?』
 凛々花は心持ち心配そうだ。

『僕、決めたよ。命ある限り、大聖さんの傍らにいるって。傷つけられても
罵られても、彼の人生から閉め出されるより、ずっといいってわかった』
 笙は、胸のつかえが取れたように明るく微笑んだ。

 
 笙が帰国した翌月の7月、大聖は治療を終えて自宅療養に入れることに
なった。笙は、驚喜して病院に駆けつけたが、大聖に会う寸前に廊下で
坂本に捉まり、談話室に連れて行かれた。

「ヨリを戻すのは、あと4年無事に過ぎてからにして欲しい。大聖の病気は
5年を一区切りとして考える病気なんだ。だから再発の可能性があるうちは、
笙くんとは他人でいたいそうだ。もちろん、それまでに君に好きな人が
できたなら、その人と幸せになってくれることを望んでる」

「そんな……」
 淡々と大聖の意志を伝える坂本を、笙は信じられない思いで凝視した。

「はっきり言わせてもらう。君に大聖を支えるのは無理だ。傷つけあって
共倒れになるのが目に見えてる。だから、あいつの傍らから離れてくれ」
「僕は……大聖さんの気持ちを尊重して離れたのに、その結果がこれなのっ!?」

 笙は、悲鳴のように叫んだが泣かなかった。怒りと悲しみとで身体が震えたが、
泣かなかった。代わりに、まっすぐに目を反らすことなく坂本を睨み付けた。

 笙の気丈さに坂本は驚いた。内気で気が弱く、決して坂本と目を合わせること
などなかった少年が、ずいぶん成長したものだ。

「まあ、笙くんの好きにすればいい。取りあえず、大聖は生き延びたんだからな」

 坂本は、思わず破顔した。笙だって、いつまでも子どもではないのだ。
それが堪らなく嬉しかった。


大聖には会えず、とぼとぼと病院から戻った笙は、必死で考えた。こんなに
頭を使ったのは、大学の入試以来ではないかと言うくらい脳細胞を絞った。

 がむしゃらに泣いて縋ったところで、大聖が気持ちを変えてくれるとも
思えない。だからといって、他の誰かと幸せになれるはずもない。なりたくもない。

 考え抜いた末、笙はひとりで神崎美耶子を訪ねた。

「初めて『花睡』を読ませていただいたとき、僕は17でした。その時はまだ
『花睡』の良さがわかりませんでした。大聖さんに『修行が足りないからだ』
って笑われました。でも今は、あの作品がどんなに素晴らしいか理解できます。
僕達は……大聖さんと僕は、『花睡』を演じるために出会ったんだと思います。
どうか、僕達にチャンスをください!」

 病気のためとはいえ、仕事に穴を開けてしまった大聖を主役に据えるのは、
大きな博打だ。それを承知で深々と頭を下げた笙に、美耶子は静かに言った。

「天野くんが病気と闘っている間、私は何度も何度も『花睡』を練り直していたわ。
これ以上ないくらい最高の作品にするために。夕べ、それが納得のいく形に完成
したの。これはきっと運命ね。『花睡』はあなたに初めて脚本を渡した4年前でも、
映画化のプロジェクトが動き出した1年前でもなく、あなたが大人になった今、
制作されるべき作品だったのよ」

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