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ライオン・89

  その日、大聖は久しぶりに雑誌の取材を受けていた。準主役を
演じることになった舞台宣伝のためだ。
 30分ほどのインタビューの最後に、年配の女性記者は優しい笑顔で言った。
「実は私、5年前にも天野さんのインタビューをさせていただいたんですよ」

 大聖は驚いて彼女を見た。
「申し訳ありません。憶えていなくて失礼しました」

「いいえ、気になさらないでください」
 そして、彼女はまっすぐに大聖を見つめて訊いた。
「では、あの時と同じ質問を、もう一度させてください。天野さんの夢は何ですか?」

「夢……」

 大聖は口の中で小さく呟いてみた。スキャンダルで仕事が減って以来、
夢を見ることなど、すっかり忘れていた。頂点に立つことを目指していた頃は、
たくさんの夢を持っていたのに。

「5年前、天野さんは『世界に通用する役者になることです。世界最古の
歴史を持つベネチア国際映画祭で評価されるのが目標です』って
おっしゃってましたが、その夢は今も持ち続けていらっしゃいますか?」

 大聖は思わず目を見開いた。演じることが大好きで楽しくて堪らな
かった自分をはっきりと思い出したのだ。

「はい……!」
 大きく肯くと、大聖は溢れる涙を見られまいと顔を伏せた。

「私、5年前のインタビューの後、天野さんのファンクラブに入ったんです。
あなたが、ベネチアに行くのを楽しみにしています。頑張ってくださいね」

 大聖は、その言葉に再び顔を上げた。満面の笑みをたたえた女性記者と目が合った。

「ありがとうございます! 本当にっ……」 

 うまく言葉が続かず、代わりに大聖は深々と頭を下げた。

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