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ライオン・91

坂本から「先日の件で、話し合いたい」と連絡があったのは、それから5日後の事だ。

「さっきから、何、ニヤついてるんだ。気持ち悪いぞ、大聖」

 事務所の会議室で坂本に指摘されて、大聖はさらにヤニ下がって言った。

「この間、笙がセックスの後、初めて言ってくれたんだ。『気持ち良かった』って。
あの笙がさ、すげぇ、恥ずかしいそうに! 俺、感動しちゃったぜ」

 坂本は、大聖を蹴り飛ばしたい衝動をぐっと堪えた。代わりに冷淡な声で忠告する。

「そりゃ、良かったな。だからって、あんまりヤリ過ぎるなよ。俺と違って、
笙くんは体力がないんだ」

「ごめん、坂モッチャン。俺、浮かれ過ぎてた」
 かつてのセフレにする話ではなかったと、大聖は反省した。

「いいよ、許してやる。それより、仕事の話をしよう」

 坂本が穏やかな声で言って手元のファイルを開いたので、大聖は急いで姿勢を正した。

「昨日、社長とふたりで神崎美耶子先生のところに伺ってきた。社長が直々に
頭を下げたところ、神崎先生の夫でプロデューサーの柳原毅(やなぎはら・つよし)氏が、
プロデュースを引き受けてくださった。脚本は、神崎先生が書いてくださる」

「俺……ベネチアに行けるんだ……」

 話があまりにトントン拍子に進んだことに、大聖は感動していた。

「話はこれからだ」

 坂本が、厳しい顔で大聖をたしなめた。柳原氏がこの話を引き受けてくれたのは、
愛妻がずっと暖めていた手中の珠とも言える脚本を世に出したいと考えたからだ。

「おまえと笙くんを共演させるのが条件なんだ。脚本は、笙くんでも無理なく
演じられるように、『花眠』を兄視点で書き直すとおっしゃった」
「え……?」

 この期に及んで、大聖は笙を利用するのを躊躇った。第一、笙に満足な
演技ができるとは思えない。

「おまえが、どうしても自分ひとりの力でやりたいと言うなら、この話は
断るが、どうする?」

 坂本は、大聖のプライドを気にかけてくれているのだ。そして、話が思わぬ
方向に進んだことに、坂本自身も戸惑っていた。

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