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ライオン・94

 2011年3月11日、日本で大地震が起こった。アメリカにいた笙は、
建物が津波に流されていくショッキングな映像の数々に、大聖が死んで
しまったのではないかと本気で怯えた。

 ほどなくして泉川や伯母・由美からのメールで、皆が無事だとわかったが、
いても立ってもいられず、パスポートと財布をデイパックに投げ込むと、
凛々花たちの制止を振り切って帰国便に乗った。

 しかし、飛行機が放射能の影響や余震を恐れて成田空港ではなく
中部国際空港への着陸に切り替えたため、笙は空港のゲートを出たところで
父親に捕まってしまった。アメリカから実家に、連絡があったのだ。

「福島の原発が危険な状態なんだ。東京なんかに行かせられない。ママは
気も狂わんばかりに心配している」

 この日、11時1分に3号機の建屋が爆発し、大量の煙が上がった。

「でも、伯母さんや大聖さんは?」
「大聖くんは今、無菌室に入っているから動かせない。由美は東京から離れ
ないと言い張ってるが、今、靖彦くんが里帰りするよう説得している」
「やっぱり僕、東京に行きたい!」

 笙は父親に懇願したが、父親はいつになく険しい顔で笙に命じた。
「原発が落ち着くまで家にいるんだ。これ以上、ママを泣かせるな!」

 笙は強引に岐阜の実家に連れ戻された。これでは何のためにアメリカから
帰ってきたのかわからない。だからといって、父親に逆らう勇気もない。
笙は、自分の小心ぶりを呪った。

「東京には大切な人がたくさんいるんだ。だから、東京へ行きたい!」

 笙は、父親に必死になって頼んだ。母親はもちろん、祖母も大反対
だったが、なんとか許しが出たのは原発事故が収束に向かい始めた3月の
終わりだ。伯母夫婦の顔を見たら、すぐに留学先へ戻るというのが
条件だった。笙は父親と二人、大量のミネラル・ウォーターや食料を
車に積んで小早川家へと向かった。


「大聖さんに…会いたい。会いに行ったらダメかな……」

 津波で壊滅した町のテレビ映像を観ていた笙が、ポツリと言った。
傍らで洗濯物を畳んでいた由美が手を止めた。笙は3日間、小早川家で
過ごし、その後、留学先のロサンゼルスに戻ることになっていた。

「そうね……ダイちゃんにバレないようにすれば、平気よね」

 翌日、笙は大聖が昼寝をする僅かな時間、彼の寝顔を見ることができた。
頭髪が抜け落ち、目は落ちくぼみ、かつての美貌は見る影もなくやつれ
果てた大聖の姿に、笙は絶句し涙が止まらなかった。時間にすれば、
たった10分か15分くらいの面会だったが、笙の動揺と胸の痛みは果てしなく
続いた。

 笙は、自分の弱さが情けなくて堪らなかった。大聖が、闘病生活から笙を
閉め出したはずだ。これでは、とても大聖の支えにはなれない。それどころか
大聖の精神的負担になってしまう。強くなりたい! 強くならなければ――
笙は切実に願った。

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