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ライオン・97

 翌年1月、映画『花睡』の制作発表で、大聖は実に1年半ぶりに笙と再会した。
大聖は退院しても、笙が下宿している小早川家を訪れることはなかったのだ。

 坂本が気を利かせて、控室で二人だけにしてくれたので、別れて以来初めて
胸襟を開いて話すことができた。大聖はかなり痩せていたが、由美がせっせと
大聖のマンションまで食事を作りに出かけているせいか、顔色は悪くない。

「この話、笙が神崎先生に頼んだんだってな。ありがとう」
 大聖は、入り口に一番近いスチール椅子に腰掛けると、静かに言った。笙を
見るその瞳に、かつての熱情はなかった。

「恋人に戻れなくてもいい。ずっと他人のままでいい。僕は大聖さんと仕事
したいんだ。だから、僕から逃げたりしないで」
 大聖の余所余所しさにも挫けることなく、笙は正面から大聖を見据えて訴えた。
 
「逃げたりはしないさ。笙は仕事の相棒だからな。そうだろう?」

 確認するように問われて、笙は大きく肯いた。以前のような甘い関係に戻れ
ないなら、せめてビジネス・パートナーとしての結びつきだけでも失いたくなかった。

「うん、また一緒に仕事ができて嬉しい!」
「俺はもう、前みたいに笙を守ってやれないかもしれないぞ?」
 大聖は酷く不安そうに言った。

「大丈夫だよ、僕はもう子どもじゃないし、今度は僕が大聖さんを守るよ。
ジムで鍛えて筋肉だって付けたんだ」
 笙が茶目っ気たっぷりに笑って応えると、大聖も釣られて笑った。

「笙に守られる日が来るなんて考えたこともなかったなぁ。長生きはするもんだ、うん!」
「大聖さんてば、僕は本気で言ってるのに、信じてくれないのっ?」
「んな、ムキになんなよ。そんなにムクれるとほっぺたが破裂するぞ」

 屈託なく笑う大聖を見て、笙は胸の内が暖かくなるのを感じた。

「やっぱ、留学は正解だったな。すげぇ大人っぽくなった」
 大聖は眩しそうに笙を見た。笙の成長が嬉しい反面、笙が手の届かない遠い
存在になってしまったような複雑な気持ちだった。


 制作発表の後、神崎美耶子の発案で、大聖の退院祝いを兼ねた親睦パーティー
が催された。『花睡』の主要キャストとスタッフ、総勢30人あまりの賑やかな
パーティーになった。

 酒は好きだが、もともとあまり酒に強くない大聖は、シャンパン一杯で見事に
できあがってしまった。宴の途中で主役が抜けるのは憚られたが、大聖が体調を
崩しては本末転倒なので、坂本と笙が連れ帰ることにした。

 坂本の運転する車が大聖のマンションに着いた時には、すでに大聖は爆睡状態
だった。身長180センチ、体重70キロの大聖が、どこかに身体をぶつけて怪我を
しないよう、細心の注意を払いながらベッドに寝かしつける。

 笙が2年近く訪れていなかった大聖の部屋は、すっかり様変わりしていた。
衛生面に配慮して観葉植物は撤去され、カーテンはブラインドに変わっている。
転倒を恐れてか、ラグやマットの類も一切取り払われていた。

「坂本さん、僕はタクシーを拾って帰りますから、先に帰ってください。
もう少し、大聖さんの寝顔を見ていたいんです」

「そうか……じゃあ、俺は帰るが、社長の奥さんに連絡を忘れないでくれよ」
「はい」

 笙は坂本に小さく会釈すると、大聖が眠るベッドの端に腰を下ろした。だが、
背中で玄関ドアが閉まる音を聞いた途端、気が緩んで涙が溢れた。

「生きていてくれて、ありがとう」

 大聖の寝顔を見つめながら、そっと囁く。例えこのまま、大聖が自分の身体に
指一本触れてくれなくても構わない、傍らにいられる幸せを忘れないでいよう。
笙は、寂しさを振り払うかのように頬を伝う涙をぬぐった。


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