スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ライオン・99

 『花睡』がクランクアップしたその夜、笙は、大聖や大林監督と共に、
神崎美耶子夫妻からディナーの招待を受けた。撮影が終わってしまい、
当分の間は大聖と会えないという淋しさで、笙はつい勧められるままに
ワインを飲んでしまった。

「あ…れ?」

 食事が終わって席を立った笙は、足下がぐらりと揺れるのを感じた。
慌てて椅子の背につかまると、美耶子の夫・柳原毅氏が心配そうに言った。

「飲み過ぎたようだね。ワインは脚にくるからなぁ。転ばないように気をつけて」
「天野くん、ちゃんと送ってあげてね」

 美耶子が悪戯を楽しむように笑ったので、大聖は渋面で応えた。

「先生も人が悪いなぁ。俺が送り狼にでもなればいいと思ってるでしょ」
「あら私、なぁ~んにも期待してないから、安心して」

 笙は、顔を引き攣らせながらも懸命に訴えた。

「ひとりで帰れます。大聖さんは夜十時までに寝て、規則正しい生活をしなくちゃ
いけないし」
「なら、僕が送ろう」

 見かねた大林監督が名乗り出てくれたが、さすがにそれは大聖も笙も恐縮して
断った。結局、大聖は笙を送りがてら、今夜は小早川家に泊まることになった。

「俺の肩に凭れて眠ってもいいぞ」

 タクシーの車内で、大聖が声を掛けてやると、笙は申し訳なさそうに肯いた。
ワインの酔いがまわり、睡魔に襲われて限界だったのだろう。ものの10分とかからず
眠ってしまった。

 その細い身体を引き寄せると、大聖はまだ少し幼さの残る寝顔をそっと盗み見た。
笙は今でも自分を愛してくれている。それは大聖に、喜びと同時に恐怖を与えた。

 アメリカから帰国して以来、笙にはひっきりなしに見合い話が持ち込まれて
いるのも、笙がそれらをすべて断っているのも由美から聞いて知っていた。
笙が来春、大学を卒業しても実家には戻らず東京でひとり暮らしするつもりなのも、
すべては、大聖の側を離れたくないからだということもわかっている。

 だからといって、だからこそ、大聖は笙が重荷だった。何も欲しがらない笙が、
哀れで怖かった。


 9月初めに『花睡』の編集が終わった。笙は、それを大聖からのメールで知った。
一般公開は年末になるという。
 その前に、大林監督にラッシュを観せてもらうから一緒に観ないかという
大聖からの誘いに、笙は驚喜した。が、同時に不安にもなった。

試写会前に監督が観せてくれるのは、大聖の体調が良くないからで、もしや病気が
再発したからではないかと考えたのだ。

 しかし、その心配は杞憂に終わった。3ヶ月ぶりに会った大聖は、体重も発病前
に戻り、よく笑いよく食べた。髪も綺麗に生え揃い、ウイッグもつけていない。
監督の奥さんが勧めてくれたワインを飲みながら、明るく闘病生活を語れるほど
元気になっていた。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加していますので、ポチしていただけると励みになります(*^_^*)

前へ  目次  次へ
スポンサーサイト

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

RSSリンクの表示

最新トラックバック

プロフィール

ブランシェ

Author:ブランシェ
まったり更新中です。

最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
リンク
QRコード
QRコード
最新コメント
月別アーカイブ
 
無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。