ライオン・100

 帰りは、酒を飲んでいない笙が、大聖の車を運転した。笙はアメリカへ
留学する前に車の免許を取ったが、大聖のように車に興味がないし、交通の便が
良い都内の小早川家に下宿しているので運転は滅多にしない。

 馴れない運転で事故って、大聖に怪我でもさせたらシャレにならない。行きの
ように大聖の横顔を盗み見る余裕もなく、笙は必死でハンドルを握った。お陰で
大聖のマンションに着いたときは、精根尽き果てていた。


「コーヒー淹れるから、上がっていけよ」

 優しく誘われて、笙は嬉しかった。大聖が自分から進んで笙を部屋へ上げて
くれるのは別れて以来、初めてのことだった。なんだか、付き合っていた頃に
戻ったようで胸が温かくなる。

「これから、試写会や舞台挨拶で忙しくなるな」
 ダイニングテーブルで向かい合わせに座り、コーヒーを飲みながら、大聖が
嬉しそうに笑った。笙は、大聖の笑顔がまぶしくて、そっと目を伏せた。
 30分ほど、他愛のない雑談をして話が途切れたところで笙は席を立った。

「コーヒー、ご馳走様。そろそろ帰るね」

 内心は、後ろ髪を引かれる思いで一杯だったが、長居をして大聖を疲れ
させてはいけないと自制した。

「悪い、遅くなっちゃったな。駅まで送るよ」
「平気、平気! 子どもじゃないんだから。僕、もう22だよ」
 上着に手をかけた大聖に、笙はふわりと笑って言った。

「そっか、もう22になったのかぁ……」

 大聖は、感慨深げに呟いた。笙が二十歳になるまでは手を出さないと
考えていた頃は、それはかなり先のことのように感じていたのに、今、
目の前にいる笙は22歳なのだ。相変わらず線の細さは否めないが、
見違えるほど垢抜けて綺麗になった。出会った頃の、怯えた小動物の
ような暗さはカケラもない。

「確かに、ひょろひょろだった骨格もがっしりしてきたし、顔立ちも
ずいぶん大人びたよなぁ」

 大聖は思わず手を伸ばして、指先で笙の頬から顎のラインを確認して
しまった。今まで自分のことに精一杯で、そんなことにも気づかなかった。

 大聖に触れられた途端、笙は狼狽した。かつて、二人が仲睦まじかった頃、
大聖はよくこうして笙の頬に触れた。笙が可愛くて堪らないというように。
気がつくと、互いに吸い寄せられるように唇を重ねていた。

 笙の舌が餌をねだる雛のように懸命に潜り込んでくると、大聖はたちまち
下半身に熱が集まり焦った。慌てて笙の身体を引き剥がし、逃げを打つ。

「わりぃ、ちょい、ふざけただけだから」

 大聖がなんとかそれだけ言うと、笙は縋るように大聖を見た。
「遊びでいいから……抱いてよ。大聖さんとしたいんだ」

「前にも言っただろう? 俺はおまえとやり直す気はない」
 大聖は、さりげなく一歩後ずさった。

「そんなに……そんなに僕が嫌いなんだ」
「そうじゃない。笙には幸せになってもらいたいんだよ」
「幸せ? 幸せって何? 好きな人の傍にいることじゃないの?」

 気弱な笙にしては珍しく食い下がった。まるで大聖を追い詰めるかのように一歩詰め寄る。

「笙には、普通に結婚して子どもを作って欲しい。休みの日には、家族で
遊園地へ行ったりドライブに出かけたり、そういう普通の人生を歩いて欲しいんだ」

「僕は、そんな人生欲しくない!」
 笙は、タダを捏ねる子どものように首を振って拒絶した。

「俺には、おまえのその気持ちが重いんだよ!」

 大聖の言葉に笙はみるみる青ざめて絶句した。笙の悲愴な表情に、大聖は
すぐに言い過ぎたと気づいた。しかし、大聖が言い繕う間もなく、笙は無言で
踵を返すと、逃げるようにマンションを出て行ってしまった。


にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
↑ランキングに参加していますので、ポチしていただけると励みになります(*^_^*)

前へ  目次  次へ
スポンサーサイト

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

RSSリンクの表示

最新トラックバック

プロフィール

ブランシェ

Author:ブランシェ
まったり更新中です。

最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

フリーエリア
リンク
QRコード
QRコード
最新コメント
月別アーカイブ
 
無料アクセス解析